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【映画レビュー】『悪魔の手毬唄』1977年

悪魔の手毬唄』1977年

『悪魔の手毬唄』1977年

悪魔の手毬唄』1977年:あらすじ

昭和27年。探偵の金田一耕助は、旧知の磯川警部に招かれて、岡山県鬼首村(おにこべむら)へとやって来ました。今回の依頼人は磯川警部自身です。

磯川警部は、20年前に起こった事件がずっと気になっていました。それは、亀の湯のおかみ青池リカの夫、源次郎が、恩田という詐欺師に殺された事件でした。恩田はインチキビジネスを持ちかけ、村の有力者だった由良家はそのために没落の一途をたどり、現在では葡萄酒製造を行っている仁礼家が村の権力者として台頭しています。

しかし元々は、この村の庄屋は多々良家でした。多々良家は、現在の放庵の代になってから、遊び好きの放庵のせいですっかり落ちぶれていました。由良家と仁礼家は、放庵を騙して、少しずつ土地や財産を巻き上げてきたという経緯がありました。

『悪魔の手毬唄』1977年

 

『悪魔の手毬唄』1977年

そこへ、現在国民的なスターとなっている、知恵が久々に帰郷します。実は知恵は、母親の春江が詐欺師恩田と出来てしまって生まれたいわくつきの子どもでした。村は歓迎ムードに沸き、仁礼家で宴会が催されることになります。

しかし歓迎会の途中に、由良家の娘、泰子が消えてしまいます……。

『悪魔の手毬唄』1977年

【レビュー】恐ろしさと切なさに満ちた、上質なサスペンス!【悪魔の手毬唄

以下、ストーリー的ネタバレはありませんが、ラストシーンの素晴らしさについて存分に触れています。
未鑑賞のかたは閲覧注意!!

犬神家も獄門島も大好きなのに、そういや手毬唄ちゃんと観たことなかったわーと思い付き、何となく観てしまいましたが、めっちゃくちゃよかった!!(TдT)

いきなりわたくしの中で、横溝映画ナンバーワンの座に躍り出ました!!

いろんなかたが金田一を演じていますが、やっぱ石坂浩二いいわー。一見頼りなげであわてんぼう、押しの弱いヒョロヒョロ兄ちゃんに見えて、根気強く調査を重ね、素晴らしい切れの推理を見せる石坂金田一は、随一のものだなと改めて思いました。

磯川警部を演じる若山富三郎もめちゃめちゃ素晴らしい。男気あふれる常識人で、ひっそりリカさんに思いを寄せ、過去の悲惨な事件に囚われている彼女を、何とか救い出したいと思っている。抑えた演技が胸に迫ります。ラストの駅のシーンの会話とか、震えます。とんでもない名優。素晴らしかったです。

青池リカを演じる岸恵子も絶品。
芸人あがりの粋で色っぽい雰囲気、客商売なのに客の食事をころっと忘れるような、明るくてサバサバしててこだわりのないおかみさんと見せながら、とてつもない悲しみを抱えている演技素晴らしかった。

そしてネタバレになるから誰役かは言わないでおきますが、白石加代子さんめっちゃっくちゃよかった!!

『悪魔の手毬唄』1977年

こわいのなんの。悲惨な目に遭い、土地の権力者たる兄の力でその悲劇を隠蔽し、いまはひっそりとふつうの人として生きている訳ですが、悲劇について明かすとき、狂気がちらほらと顔を出すような語り口で、な、な、なんだこの女優さんは!! とビックリ仰天しました!! ほんと素晴らしいので中盤のネタ明かしシーンには大注目していただきたいです。

ストーリーもめちゃめちゃいい。

岡山の山奥の、鬼首村(おにこべむら)なんていうエキセントリックな名前の村で、三家がじとっと権力争いをしていて、それでも若者たちは、新しい産業である葡萄酒作りに未来を夢見て、ささやかに恋などもしている。

亀の湯のおかみ、リカは三味線が上手で色っぽく、性格はサバサバしていて明るい。夫を殺害され、犯人はまだ捕まらないという悲劇に見舞われてはいるけれど、湯屋を経営し、お調子者の歌名雄、半身を赤いあざで覆われた里子という二人の子どもを育て上げました。

そして村は、かつて恩田という真性クズによって傷手を負い、恩田に酷い目に合わされた女たちも、痛みを抱えつつも自分の人生を、村で、そして村の外で、懸命に生きている。

リカに密かな思いを寄せている磯川警部は、何とかして彼女の夫を殺害した犯人を捕まえたいと思っていて、金田一は「そんな昔の事件を……」と思いつつ、徐々にこの禍々しい村の秘め事に巻き込まれていきます。

被害者の殺され方も本当に恐ろしい。

金田一ものの定番「見立て」に沿って殺されていく訳ですが、本当に無残な死体のさらされ方をしているので、ゾワゾワしてしまいます。

うぎゃーーーーこわいこわい!!と、死体が発見される度に戦慄し、一体犯人の目的は?と金田一と一緒にあたまを悩まし、そして種明かしにえーーーーーーっ!と心底から驚き、関わった人間全ての人生を思って悲しみにくれる。本当にめちゃめちゃに心を揺さぶられてしまいました。

そして何より、金田一と磯川警部の、男の友情がいい。

洋画のアツいバディものみたいな感じではなく、ベタベタせず、淡々としていながらもお互いを静かに信用している。

ラストシーンの駅での別れは、いつまでもいつまでも余韻の残る素晴らしさ!!(TдT)

切ねえーーーーーー!!

汽車なのがいいよね。
別れのときを報せる汽笛が鳴り、シュッ、シュッ、シュッ、シュッシュッシュッシュッシュッシュッシュッシュッと徐々にスピードを上げていき、「えー? いま何て言ったーー??」音にかき消されて別れの言葉が聞こえない。去りゆく者は車窓から身を乗り出し、残る者はいつまでも立ち尽くしてお互いを見送る。

うわーーーーーーーん!!(TдT)

思ったんだけど、手毬唄のラストの駅のシーンが後世の映画に与えた影響って、めっちゃめちゃデカいんじゃないかなぁーーー

だってこういう別れのシーン、わたし何度も観たことありますもん。そして手毬唄以上に古くて、手毬唄以上にぐっとくるこういう別れのシーン、知らないもん。

そしてラストの音楽ね!! 不思議とやさしいテーマ曲が、別れゆく金田一と磯川警部、だけでなく、死んだ者、生き残った者、村に残る者出てゆく者の全てを包み込むようで、もうね、何とも……

希望とかいう甘っちょろいものではないんだけど、「それでも世界は回り続け、人生は続いてゆく」的な、慈愛みたいなものを感じました。

素晴らしいなあああああああああああ

めちゃめちゃ恐ろしい連続殺人事件、しかも閉鎖的なド田舎での話なんだけど、何だろう、この包容力は。

生きてるとさ、生きてる場所の慣習とかに縛られたり、それなりに平和に暮らしてたのに、突如嵐のようにクズに襲われてて何もかも失ったり。スッゲままならないけど、でもなんか、「生きるって素晴らしい」なんてクソばかばかしいことは絶対言わないけど、うん、何だろ、それでも生きてる、生きてゆくって、なんか泣いちゃうよな、って思います。

ラストの汽車ぽっぽの別れ回想するだけで、当分ご飯3杯はイケる。

めちゃめちゃ素晴らしいので、まだのかたも、再鑑賞のかたも、是非ご覧になってくだたい!!

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