Canary Chronicle~カナリアクロニクル~

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映画や本のレビューや雑感、創作活動や好きなもののことなど。トリッチのあたまの中のよしなしごとを綴ります。

【映画レビュー】『バグダッド・カフェ』1987年

バグダッド・カフェ』1987年

『バグダッド・カフェ』1987年

バグダッド・カフェ』1987年:あらすじ

アメリカ旅行中のドイツ人、ジャスミンは、夫とケンカしてクルマを降りてしまいました。
ここはラスベガスの手前のモハーヴェ砂漠。
やっとのことでたどり着いたカフェ兼モーテル兼ガソリンスタンドの「バグダッド・カフェ」は、怒ってばかりの女主人、ブレンダを始め、どこか奇妙な人々の掃き溜めのような場所でした。
ジャスミンはここにしばらく滞在することにします。

『バグダッド・カフェ』1987年

【レビュー※ネタバレなし】緩やかに訪れる変化と解放に涙する、上質な大人のおとぎ話【バグダッド・カフェ

いやもうね、聞きしに勝る名作でした。

泣きました。ちょう泣きました。

人の生き死にみたいな劇的なシーンはなく、淡々と、ただ淡々と「ここから何処にも行けない」感じの砂漠の真ん中の寂れたカフェで日常が展開する訳ですが、ゆっくり静かに訪れるそれぞれの変化と解放へのプロセスに、もうただただ泣きました。

バグダッド・カフェの黒人の女主人、ブレンダ。
彼女は前半ヒステリーを起こして誰彼構わず怒鳴り回してばかりいますが、これがとっても苦しい。

本作が流行っていた20代の頃に観たら、ただただイヤなおばはんに見えてしまったかもしれない。
しかしですね、こっちもバツイチババアになり、人生の酸いや甘いをちょっとだけ分かるようになった今観ると、ブレンダのつらさ・悲しさが痛いほど分かるので、とってもしんどい。

本作が流行っていた20代の頃に観たら、ただただイヤなおばはんに見えてしまったかもしれない。しかしですね、こっちもバツイチババアになり、人生の酸いや甘いをちょっとだけ分かるようになった今観ると、彼女のつらさ・悲しさが痛いほど分かるので、とってもしんどい。

アホ旦那は買い物ひとつまともに出来ないのにヘラヘラしている。
嫁さんに逃げられた息子は、店を手伝うでも、自分の子どもである赤ん坊の面倒をみるでもなく、ひたすら下手なピアノに熱中することで大事なことから目をそむけようとしている。
チャラい娘は近隣のあんちゃんたちと遊び回っている。
店は散らかり放題で閑散としてるのに、やることばかり山積みで、たった1人で苛々しながら対応するしかない。/p>

ああそれなのに、アホ旦那は逆ギレして出ていってしまう。
途方にくれちゃいますよね。

そこへ異分子として、旅行中のドイツ人の上品な婦人、ジャスミンがやって来る。

ここがめちゃくちゃ大事なとこなんですが、ジャスミンだって聖人君子じゃないし、特別な人でも何でもないんです。
彼女自身、旅行中に突然キレた旦那から、外国の砂漠の真ん中に置き去りにされるなど、冴えない目に遭ってるおばさんです。
しかもまちがって旦那のスーツケースを持ってきちゃったから、着替えすら満足にない…

そんなブレンダとジャスミンが出会って、二人の間にゆっくりと化学反応が起こる。

ブレンダよりも先に、彼女の子どもたちと打ち解けたジャスミンに苛立つブレンダが「そんなの、自分の子どもとやりな!」と怒鳴ると、「子どもは……いないの」と答えるジャスミン。はっとするブレンダ。

そしてジャスミンが、夫のスーツケースにねじ込まれていたマジックセットを引っ張り出して練習して、カフェで手品を披露してお客さんたちにうける。

と、ブレンダに近寄っていって、彼女の顔の前でぱっと赤いバラ一輪を取り出して、

「マジック」

と囁く。

この赤いバラのシーンで涙腺崩壊して、わたくしめちゃくちゃ泣いてしまいました

たった一輪の、小さなおもちゃの赤いバラ。
けれどもそれは、ブレンダが我知らず求めて求めて、けれども誰も与えてくれなかったものの象徴に思えたのです。

ボーイズ&ジェントルメンの皆さん、大事なとこですのでメモの準備をお願いします。

赤いバラには、本物の魔法の力が宿っています。
誓って本当の話ですが、ハリー・ポッターのマジックワンドよりも強大な力です。
ほんのちょっとでいいので、相手にほんとに寄り添うつもりで、差し出して下さい。
大切な人に。もしくは慰めてあげたい人に。
眼には見えないかもしれないけど、貴方とお相手のあいだで、赤いバラはマグネシウムのように強く発光して一瞬で燃え尽きます。
すると貴方とお相手のあいだに、美しい化学反応が起こって、もはや昨日までの貴方とお相手ではなくなる。

繰り返しますけど成功のコツは「ほんのちょっと、本当に相手に寄り添う気持ち」です。

グッドラック。よし今すぐ花屋に走ってゆけ!!

バグダッド・カフェ』は、ひとことで言うなら「大人のおとぎ話」です。

『バグダッド・カフェ』1987年

我々大人は全員知っていますこのような、ひととひとのあいだの化学反応は、本当はなかなか起こらないということを。

そして同時に、我々全員が、皆無でないことも知っている。

だから我々は、ブレンダとジャスミンのあいだに起こった奇跡と、次いでカフェのみんなに起こった奇跡に涙し、安堵のため息をつくのにちがいありません

『バグダッド・カフェ』1987年

白いドレスのジャスミンと、待ちかねた笑顔のブレンダが抱き合い、ジャスミンは靴を脱ぎ捨て、お互いの髪に野の花を挿して談笑するシーンの何と美しいこと。

「実は観たことないんだよね」っていう皆さん。
映画は観たいときが観るべきときです。

気になったら是非本作『バグダッド・カフェ』、ご覧になってみて下さい!!

そして、「若いときに観たけど、あんま響かなかったんだよね」という皆さんも、大人になったいま、是非再鑑賞なさってください!!

やさしく、しかし確実に訪れる変化の予感。
「Calling You」を口ずさみながら、気長に待ってみたい気持ちになること請け合いです。

それとも自分で起こしましょうか。赤いバラを持って、あのひとのところで。

A hot dry wind blows right through me
The baby's crying and I can't sleep
And I can feel a change is coming,
Coming closer sweet release
熱く乾いた風が通り抜ける
赤ん坊は泣き続け、眠れそうにない
それでもわたしは変化の訪れを感じる
近付いてくる、甘い解放の匂い

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