Canary Chronicle~カナリアクロニクル~

Canary Chronicle~カナリアクロニクル~

映画や本のレビューや雑感、創作活動や好きなもののことなど。トリッチのあたまの中のよしなしごとを綴ります。

【映画レビュー】『イット・カムズ・アット・ナイト』2017年

イット・カムズ・アット・ナイト』2017年

『イット・カムズ・アット・ナイト』2017年

イット・カムズ・アット・ナイト』2017年:あらすじ

壁をビニールで覆われた異様な寝室。中央のベッドでは、弱りきった老人が背中を丸めて座っています。
「パパ……愛してるわ」泣きながら彼に話しかける女性も、ほら、お前も、と促された少年も、物々しいガスマスクをしています。少年はためらいがちに「おじいちゃん……愛してる」と言います。
「さぁ、お別れの時間だ」やはりガスマスクをした男性が声をかけ、彼と先程の女性は老人を担架に乗せると、森へと運び出します。

この子にはまだ早いわ! いや、ちゃんと見せるべきだ。
男女間で軽い争いがありましたが、先程の少年も彼らについて森に入っていきます。
大きな穴が掘ってある場所に到着すると、男性は老人の顔を枕で覆って、撃ち殺しました。
老人の遺体は無造作に穴に投げ込まれ、ガソリンをかけて丹念に燃やされてしまいました……。

『イット・カムズ・アット・ナイト』2017年

男性の名はポール。一家の主たる父親です。
女性は妻のサラ、少年は息子はトラヴィスです。
殺された病気の老人は、サラの父親でした。

謎の疫病が流行し、街も文明も壊滅、人間もあまり生き残っていないようです。
誰もが水や食べ物を求めて危険な状態になっており、かつ、死の病にいつ感染するか分からないという状況で、ポールは義父の持つ森の家に、家族を守るために隠れ住んでいたのでした。
トラブルを避けるために、ポールは絶対的な決定権を持ち、ポールの庇護の下にサラとトラヴィスが暮らしている状態です。

『イット・カムズ・アット・ナイト』2017年

一家の最大のタブーは、夜に野外に出かけることと、単独で森に入ることでした。どんな危険が潜んでいるか分からない夜、そして森。緊張を強いられる毎日。17歳のトラヴィスは、不安定になっています。

そんなある日、殺された祖父が出てくる悪夢に目覚めたトラヴィスは、実際に祖父が闘病していた部屋から物音がしていることに気付きます。
ポールに捕まった侵入者はウィルと名乗り、ここから80km先の廃屋に妻と幼い息子を隠してある、家畜も連れており、十分な食料があるので、水を分けてほしいと持ちかけます。
ポールはサラと相談し、人数が多い方が、他の人間の襲撃があった場合などに有利かもしれないということで、ウィル一家を家に受け入れることにします。

少しずつお互いが気を許していき、うまく回り始めたように見えた共同生活。
しかし恐怖と疑心暗鬼が、少しずつ少しずつ、この共同体の歯車を狂わせ始めます……。

『イット・カムズ・アット・ナイト』2017年

【レビュー※ネタバレなし】不穏な空気が全編を覆う「不条理極限状態サスペンス」【イット・カムズ・アット・ナイト

敢えてジャンル分けするとしたら「不条理極限状態サスペンス」ってところでしょうか。
全編を覆っている死の恐怖、不安定な17歳の息子トラヴィスが、繰り返し悩まされる悪夢のパートは、なかなか怖いです、ホラーしてます。

音楽と効果音も素晴らしい。めちゃくちゃいい感じに緊張と不安を煽ります。
うまいですねー。トリッチセレクション「効果音オブジイヤー2018年」は、断トツで『聖なる鹿殺し』だったんですけど、本作もええやん!!と、ワックワクしてしまいました。

状況の詳細説明は一切ありません。
劇中でもポールがウィルに「何が起こっているのか分かるか?」と尋ねるシーンがあり、登場人物たちも戸惑っている度合いの方が大きいようです。 推測するに、謎の疫病が大流行して、治療の手立てもないようです。
感染したら苦しんだ挙げ句、死ぬ。この疫病のせいで、どうやら街や文明が壊滅状態で、人間もわずかにしか残っていないらしい。
当然水も食料も不足し、人々は危険な状態になっているし、何よりいつ死の病に感染するかも分からないという状態。
こんな世の中なので、ポールは義父の持つ森の中の家に隠れ住むことで、家族を守ろうとしています。

一歩家の外に出れば危険がウヨウヨ。 どころか、家に居ても、悪意を持った他人や、何より病原菌の侵入に怯えて生きる毎日。

このような状況を生き抜くためには規律が必要という考えのポールは、絶対者として一家に君臨しています。
思春期の少年からすれば納得のいかないことも勿論ありますが、父の方が体力も知性も経験も上なので、粛々と従っています。

『イット・カムズ・アット・ナイト』2017年

ポールは厳しい存在ですが、わたしは暴君には思えませんでした。
むしろ、一番重圧を感じ、何とか一家を守ろうという考えに頑強に縛り付けられているように見えて、哀れに思いました。

そこへ、見知らぬ他人の一家が闖入してきます。

一家の父親で、信用出来る人間に見えるウィル。
ウィルの若くて魅力的な妻であるキム、そして小さな可愛らしい坊やのアンドリュー。

「家族以外誰も信じるな」と言い聞かされ、犬のスタンリーだけが心の拠り所だった多感な少年、トラヴィスは、新しい仲間が出来たことを単純にうれしく思います。
中でも若くて美しいキムには興味津々。密かに夢に見る程ときめいてしまいます。

ちなみにキム役の女優さんは、みんな大好き『マッドマックス 怒りのデス・ロード』において、赤毛の美女ケイパブルを演じていたライリー・キーオ。
いいですね。今回も、キュートなのに蠱惑的!! 彼女はこういう誘惑者たる役が非常に似合いますね。
まぁ今回はトラヴィスが勝手に惹かれてるだけですが、密室感もあって非常にドキドキしちゃいました。

ああそれなのにそれなのに。ああそれなのにそれなのに!!!

敢えてバッサリ言っちゃうと、万人が楽しめる映画ではないかも。 特にきっちりとした種明かしを求める人や、プロットがうんぬん~とかうるさい人は、あっさりとダメ映画の烙印を押すことでしょう。

でも、トリッチ的には当たりです!! これ大当たり。
あーもー、好き!!

ホラーと言いつつホラーじゃない映画とか見せやがってよぉ、みたいな気持ちはもうたくさんなんですよ
ばっちり怖がらせてくれよ! ほんで映画館から出ていくとき、絶望で呆然とさせてくれ!!

この2つをガッツリ満たしてくれたので、『イット・カムズ・アット・ナイト』、わたくしにはドンピシャ大当たり映画でした。最高。まじで呆然としながらフラフラ映画館を出てきて、ちょっと現実に戻ろうか、と言いながらお昼喰ってるうちに、映画のこと思い出して興奮で眼がギラギラしてくるような、そんな映画でした。

ちょっとうがった見方をしちゃうと、難民問題を皮肉ってるのかな、なんて思ったり。
受け入れておいて、面倒事が起こったら、ふーんそうなんだ、とか。

あと、ホラーにありがちなアレですけども、本当に怖いものって一体何でしょうね!!という問いかけ。
またそれ?なんて言わないで。これは未来永劫問われ続ける問題なのですから。
みんな答えを知っていながら何で繰り返し問われ続けるのかというと、ともすると答えを忘れたり、あまつさえ目を逸らそうとするからです、人類は!! なので、確認のためにこういう映画をたまに観るのもよろしいでしょう。

実にシンプルで美しい、不穏すぎるポスターに惹かれたら、「こまけぇこたぁいいんだYO!」とばかりに自ら恐怖中枢を剥き出しにして、『イット・カムズ・アット・ナイト』、是非体感なさって下さい!!

ブロトピ:映画ブログ更新しました!