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映画や本のレビューや雑感、創作活動や好きなもののことなど。トリッチのあたまの中のよしなしごとを綴ります。

【ブックレビュー】『偽偽満州(ウェイウェイマンジョウ)』

『偽偽満州(ウェイウェイマンジョウ)』

『偽偽満州(ウェイウェイマンジョウ)』岩井志麻子

 

今日はめちゃくちゃ大好きな、岩井志麻子姐さんの小説をご紹介致します。

『偽偽満州(ウェイウェイマンジョウ)』:あらすじ

稲子は昭和初期の岡山のお職女郎。美人で嘘つきで性技にも長けたナンバーワン。
15歳で売られてこの道に入ったので、「あたしは最初から慰み者だったから、絶望なんて言葉は知っていても身に染みたことはなかったし、その反対の希望なんてものもやっぱり言葉だけぱりは知っていてもこの腕に抱いたことなんてなかった。」というメンタリティで生きています。

そんな日々で、ピストルの完治、略してピス完という凶悪なピストル強盗の男がニュースになります。何となく彼に惹かれる稲子。そこへ「中西」という男が客として現れ、稲子は彼をピス完なんじゃないかと思って強烈に惚れてしまいます。で、中西に一緒に逃げようと言われて大陸の満州に渡る。

ところがそこで、中西は満州遊郭に稲子を売って消えてしまう。
稲子は殺人などの罪を犯しながら、奉天・新京・ハルピンと移動し、中西を追います。

【レビュー】アタシの世界を変える男。魔王のような男に惹かれて、ひたすらに追い求める

岩井志麻子の初期作品が好きでたまらないわたしですが、この『偽偽満州(ウェイウェイマンジョウ)』はいつもの志麻子節、つまり「湿度と密度の高い原色の性的悪夢」を保ちながら、更に対極の、風、疾走感、そして乾燥まで感じさせてくれて、めちゃくちゃ大好きな作品です。

クライム&ロードムービー的な赴きがあります。乾いた感じはおそらく舞台となっている大陸の気候のせいと思われます。全編、熱く乾いた風、見慣れない異国の花とその匂い、それらに掻き立てられる追跡と疾走への欲望に酔わされます。

そして、主人公の稲子が余りにも魅力的。
「お職(=ナンバーワン)だからこそ、客を選り好みしたりしない」
「あたしは騙されて売られることなんて少しも怖くない」
こんなしたたかな彼女は、男なんて少しも信じていない。

彼女にとっての男は、喰い殺して次へ進むための獲物であり養分である存在。
けれど同時に、可愛くて、愛しくて、「自分を向こう側へ連れて行ってくれる存在」でもある、と信じているところがあり、このアンバランスさがめちゃくちゃ魅力的かつ共感を覚えるところです。

稲子を満州まで連れて行って売り飛ばした中西は、わたしは「ピス完」とは別人なんじゃないかと思っています。でもきっと稲子にとってそこはどうでもよいことで、彼を「あちら側へ連れて行ってくれる男」と信じたことこそが重要なのではないかと。

とてつもない変容をもたらし、わたしの世界を変えてくれる男。
つまり魔王タイプの男ですね。
いいですね。わたしも大好きです、魔王タイプ。
ピス完は彼女にとって魔王の象徴であり、眼の前に現れた中西をそれと思ったことこそが、彼女にとって意味のあることなのだと思います。

そして、稲子の中西への恋情は破滅願望につながっていて、彼女を突き動かしているものは破滅願望にほかなりません。

人は何故破滅に惹かれるのか。
それは、破滅はカタルシスでありエクスタシーだからです。

それ故、走って走って、追い掛けて追い掛けて、只中へ全身でダイブしたくなる。

『偽偽満州(ウェイウェイマンジョウ)』は、そんな破滅へ向かう疾走の快楽を味あわせてくれる超絶名作です。
タイトルの「偽偽」も、「偽満州国」という言葉に引っ掛けて作ったのだろうけど、結局この世は欺瞞なんだと言わんばかりで非常にカッコいい。
女全開、超絶色っぽい姐さん(書き手も主人公も)のダンディズムですね。心底シビレてしまいます。

物語の終盤に出てくる「客に添い寝して夢を売る遊郭」シーンも非常に幻想的。

むかぁし吉本ばななも添い寝風俗?の短編を書いてますが、あちらの物語に出てくるおじょうちゃんは可憐だったな。結局客の悪夢に侵食されて、布団で眠れなくなって、ハンモックとか使っても眠れなくて、自殺してしまう。
わたしは男を喰い殺さんばかりの志麻子姐さんの添い寝遊郭の方が、断然好きですね。

そんな訳で、『偽偽満州(ウェイウェイマンジョウ)』超絶オススメ!!

志麻子姐さんの爆乳に抱かれて、レッツ破滅!してみませんか!!!٩(๑´3`๑)۶ ♡♡♡

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