Canary Chronicle~カナリアクロニクル~

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映画や本のレビューや雑感、創作活動や好きなもののことなど。トリッチのあたまの中のよしなしごとを綴ります。

【映画レビュー】『ホテル・ルワンダ』2004年

ホテル・ルワンダ』2004年

『ホテル・ルワンダ』2004年

ホテル・ルワンダ』2004年:あらすじ

ポール・ルセサバギナは四つ星ホテル「オテル・デ・ミル・コリン」の副支配人です。支配者層や海外の金持ち相手のビジネスは非常にうまくいっており、愛する家族としあわせに暮らしていました。
しかし世の中には不穏な空気がたち込め始めていました。
取引先であるジョルジュ・ルタガンダは、フツ族の過激派民兵組織「インテラハムウェ」のリーダーを務め、ラジオ番組でしきりにツチ族の殲滅を煽っていました。

ポール自身はフツ族ですが、愛妻タチアナはツチ族です。
タチアナの兄夫妻は「高い木を刈れ」という合図でツチ族への攻撃が始まるという情報を得たので、いまのうちに自分たちと一緒にタチアナも避難すべきだとポールに伝えます。が、ちょうど大統領と反乱軍が平和協定を結んだばかりだったこともあり、当面安全と考えたポールは、義兄夫妻の申し出を断ります。

しかしその夜。
帰宅すると停電しており、ポールの自宅には近所の住民が避難してきていました。
ラジオを聞いてみると、しきりに「時は来た。高い木を刈れ」と流れていました――。

【レビュー】世紀の大虐殺、なのに国際社会は無関心。つらい!

ものすごい映画を観てしまいました。
ルワンダ大虐殺については、基本的なことは知っているつもりでしたが、これほどのものとは。
そして国連の無能っぷり、西側諸国の無関心っぷりにも腹が立って腹が立って……。

先ず驚いたのが、フツ族ツチ族について。
諸説ありますが、映画の中では「明確に違う人種という訳ではない」という立場を取っています。
「長身で肌の色が薄く、鼻が高くて細い方がツチ族、背が低く色が黒い方がフツ族。彼ら(=ベルギー人)は鼻の幅を測って決めたんだ」
つまりかつての統治国であるベルギーが、白人に似た部分がある少数派を支配層と定めた、ということなのですね。身分証IDにも掲載させて、明確にちがう人種として勝手に決めてしまった。しかも鼻の幅って……そんな雑な方法で振り分けるって信じられないですよ。もっとこう、DNAレベルで考えないといけないんじゃないの??……ここが最初の激怒ポイントでした。

統治国の思惑で分断されてしまいましたが、元々ツチ族フツ族は言語・宗教が同一で、居住地も混在しています。心の中には「あいつらとはちがう」という気持ちがあったにせよ、つまりお互いが「ふつーにそこらにいる隣人」の状態でした。主人公のポールも、自分はフツ族ですが、愛妻タチアナはツチ族ですし、ホテルの従業員も両方で成り立っています。

それなのに。

ある日突然、多数派のフツ族の過激な連中が「ツチ族をこの世から消し去れ!」という恐ろしい暴動を起こします。
昔々に西側から仕掛けられた分断により、長い長いあいだくすぶっていた対立の火種が、突然爆発し始める。昨日まで普通の隣人だった者たちがナタを手に取り、命乞いをする隣人を、女子供に至るまで惨殺し始めるのです。

ポールはいいやつだけれど、聖人君子ではありません。ただ優れたビジネスマンであるというだけです。勤め先であるホテルを守り、自分の家族だけでも何とか安全を確保出来ないかと最初は思っています。

しかし、逃げ込んできたご近所さんをホテルに移し、その後も続々とホテルに逃げ込んでくる人々をかくまっているうちに、変化が訪れます。

フランス本社に助けを求め、本社社長(ジャン・レノでした)が大統領や国連に働きかけてくれるものの、「西側はルワンダには価値がないという考えだから、助けに行くことは出来ない」とあっさり切り離されてしまいます。
「俺はばかだった。いつの間にか自分を支配者層だと勘違いしていた」ポールは苦悩します。

そしてホテルに滞在していた金持ちの欧米人たちは、次々と避難していきます。

白人の中には、現地に溶け込んで一生懸命活動している者も少なくありません。
しかし、彼らの祖国は「彼らだけ」助けるつもりなので、彼らが親しくしてきた現地のみんなのことは、見殺しにし、置き去りにするほか術がありません。

教会の者全員を連れてホテルに逃げ込んできた牧師さんが可哀想でした。
「ファーザー、さぁ早くバスへ」
「そんな、待ってくれ! 子どもが! 子どもがこんなにいるんだぞ!」
教会は現地の孤児の面倒を見ていたのですが、子どもたちも、現地スタッフも置いていけと言われてしまいます。泣きながら引き剥がされる牧師さん、そしてどしゃ降りの中、呆然として彼らを見送るルワンダ人たち。憐れむように、しかし完全に他人事として、バスの車窓から彼らを見下ろす欧米人たち。犬ですら、彼らのものならば一緒に避難出来るのに。ここは本当に酷いシーンで、大泣きしながら観てしまいました。

『ホテル・ルワンダ』2004年

 

国連平和維持軍も頑張るのですが、本当に無力です。
内政干渉はもちろんご法度だし、平和維持のために派遣されているという名目上「銃を撃つことは禁止」なのです。一応持ってはいますが、警告のために空に向けて撃つくらいしか出来ません。そのため、武装した民兵に囲まれて、国連軍も10名命を落としてしまいます。

こんな地獄で、何がなんでも、家族を、そしてホテルに逃げ込んで来た者たちを守り抜く。決意したポールは、これまで培ってきたビジネスマンとしての交渉力と人脈を生かして、賄賂を要求するドグサレ政府軍のビジムング将軍、フツ族過激派のリーダー、ルタガンダなど、危険な曲者たちとのギリギリのやり取りを重ねます。

劇中の「こわいね、悲しいねって言って忘れて終わりさ」という言葉が、鋭く深く突き刺さる名作!!

『ホテル・ルワンダ』2004年

 

ルワンダは、わたしにとっても、距離的にも心理的にも遠い国です。しかし、こんな理不尽な暴力の嵐が吹き荒れて、何の罪もない人たちが、家や家族や自分の命を奪われるような事態を「かなしいね」とだけ言って静観するって、めちゃめちゃ卑怯だったのでは……と考えてしまいました。

出来ることはほとんどないかもしれない。 でも、もし自分にこんなことが起こったときに「一銭の価値もないから」と、世界中から黙殺されたら、恐ろしすぎる。

何も出来ないからといって無関心でいていいはずがない。 そんなことを改めて考えた映画でした。

劇中のポールの実在のモデルであるポール・ルセサバギナさんの著書『ホテル・ルワンダの男』そして国連軍のオリバー大佐のモデルであるロメオ・ダレールさんの著書『なぜ、世界はルワンダを救えなかったのか―PKO司令官の手記』も、合わせて読んでみるつもりです。

久々にすさまじい映画体験でした。

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