Canary Chronicle~カナリアクロニクル~

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映画や本のレビューや雑感、創作活動や好きなもののことなど。トリッチのあたまの中のよしなしごとを綴ります。

【映画レビュー】『セッション9』2001年

『セッション9』2001年

『セッション9』2001年

『セッション9』2001年:あらすじ

マサチューセッツ州。ダンバース州立病院は、1871年に設立され、全盛期は2400人もの入院患者を抱える大病院でしたが、現在はすっかり廃墟となっています。

その巨大な施設は中央の職員棟と、両翼に広がる病棟から成っていました。1985年に閉鎖されてから、実に15年もの年月が経ち、荒れ果てていましたが、立地がよかったため、役所などの公共施設として再利用する計画が進んでいました。

しかし、規制前に建築された建物であるため、あちこちに有害なアスベストが大量に使用されていて、除去してからでないと改築も出来ません。

『セッション9』2001年

ゴードンは子供が小さく、大きな仕事を欲しがっていました。
そして、入札欲しさに工期を1週間と宣言し、強引に仕事を取ってしまいます。

作業に関わるのは、ゴードンの長年の相棒のフィル、陽気なお調子者のハンク、弁護士の息子でどうやらまだ弁護士になることを諦めきれていない博学のマイク、そしてゴードンの甥であるジェフです。

ジェフ以外は熟練の職人ですが、実はハンクはフィルの恋人を奪った経緯があり、ジェフは気のいい若者ですが、マイクをからかって一時険悪になります。そしてどうやらゴードンは、赤ん坊の娘がいるというのに奥様とうまくいって居ない様子。
人間関係は一触即発の雰囲気を帯びています。

それでも1週間でこの仕事をやり遂げれば、1人に1万ドルという巨額のボーナスが約束されているため、職人たちは仕事にかかりました。

精神病跡の廃墟であるため、不気味なものがいろいろ発見されます。

マイクは、地下の資料室で見つけた「メアリー」という患者と医師の会話を録音してあるテープを見つけて、密かに夢中になります。メアリーはどうやら多重人格者で、録音はセッション1~9まであるようでした。

『セッション9』2001年

そしてゴードンは、悪夢にうなされるようになってしまいました。
「ハロー、ゴードン」
そして、血だらけの防塵服の男。
「誰だか分かるか?」

『セッション9』2001年

【レビュー※ネタバレあり】残留思念とリンクする内なる弱さ【セッション9】

ホラー? サスペンススリラー?
はっきり幽霊が現れる訳ではありませんが、非常に怖く、静かで美しい映画です。

まず本物のダンバース州立病院跡で撮影したとのことで、廃墟光景が圧巻。
日の差すサンルームや階段室は白々と明るく、日の届かない資料室や地下廊下は、ひとたび明かりが落ちると真の暗闇に覆われて、とてもとても恐ろしい。

様々な治療に使った道具や部屋もそのままで、手術室、死体安置室、そして厨房なんかも調度もそのままに放置されています。居室の壁には、切り抜きや患者の家族の写真、「みんながわたしを狂っていると言った」という手書き文字などが残されていて、何とも不気味な雰囲気が漂っています。

『セッション9』2001年

『セッション9』2001年

そんな不安定な場所に、不安定な心を抱えた作業員たちが入ってきてしまうのだから、影響を受けてしまっても何ら不思議ではありません。

淡々と静かに進んできたストーリーは、ラスト付近で突如スピードをあげて、主人公たちを破滅の方向へ突き転がしてゆきます。 あやうく保たれていた均衡が一気に崩れ去って怒涛のゴアシーンへと。痛い痛い痛い!!
そして明かされる、悲惨な結末。あーあもうっていう絶望を禁じ得ません。

結局彼らを破滅へと導いた存在とは何だったのか。

陰惨な場所の、邪悪な過去の残留思念がそうさせたとも取れるし、不安定な場所で我知らず吹き出してしまった彼らの内なる弱さだったのかもしれない。
いろんなレビューを読むと、そこがはっきりしないのが気に入らないという意見が多いようでしたが、わたしはこれは、意図的にどちらとも取れるように作ってあるのだと感じました。

どちらでもいいのです。

けれどわたしは、やっぱり陰惨な場所の邪悪なものは、その場で一番不安定な人間に付け込むのだと信じています。
『シャイニング』のジャックがオーバールックホテルの怨霊たちに取り憑かれたように。
そして内なる弱さは、端からは分からなかったりするので、人間て多様だなとつくづく考え込まずにいられなくなるのです。

ド派手なアクションもなく、テンポのよいストーリーでもありませんが、美しく恐ろしい廃墟で、弱い心が淡々と壊れていく様子を描いた『セッション9』、めちゃくちゃ好みの映画でした。廃墟美に酔い痴れたい皆さんにも、力強くお勧めしたい作品であります!!

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