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映画や本のレビューや雑感、創作活動や好きなもののことなど。トリッチのあたまの中のよしなしごとを綴ります。

【映画レビュー】『日々是好日』2018年

『日々是好日』2018年

『日々是好日』2018年

『日々是好日』2018年:あらすじ

典子は20歳。「真面目で理屈っぽくておっちょこちょい」と両親から言われつつ、生きる道を模索している女の子です。

ある日母が、近所の武田さんを「あの人は只者じゃないわ。お辞儀ひとつで、ほかの人間とはちがうと分かった」と言います。

武田さんはお茶の先生でした。成り行きで、いとこの美智子と一緒に、お茶を習いに行くことになる典子。

『日々是好日』2018年

「あたまで考えちゃダメよ。先ずかたちから入って、心がついてくるのよ」初めて触れた茶の湯の世界は戸惑うことばかり。しかしある日、一人でお稽古に出かけた典子は、初めて武田先生の言葉の意味に少し触れて、俄然お茶が楽しくなっていきます。

【レビュー】移りゆく季節と年月。何気ないことが幸せだった。大感動!!

いやーーー泣いた泣いた。こんな地味な映画なのに!

最初に言っておきましょう。本作、ひっじょーーーーに地味です。
しかしめちゃめちゃ響きました。素晴らしい!!

主人公の典子を演じる黒木華ちゃん、めちゃめちゃいいです。
背筋がすっと伸び、何より声と声の出し方がとてもいい。とても品のあるお嬢さんです。

そして何より、樹木希林さん!!

わたくしお恥ずかしながら、樹木希林さんの本気の演技を初めて観ました。
CMなどにおける、おちゃめでコミカルな彼女のことしか知りませんでしたが、何だこれは。
これは、演技なのか。本当に演技なのか。
あのね、武田先生という実在の、こういうおばさんを、盗み撮りしたようにしか見えない。何なんだこれは。話し方、所作、何もかもが自然すぎて、演技とかウソでしょと言いたくなる。
亡くなった際「ちょっと持ち上げすぎなのでは」などと不遜ながら思っていた訳ですが、これはほんとに大変な女優さんです。

北野武が希林さんのことを、

「相手が新人だったら徹底的にやられちゃうね。左手一本でやられちゃうくらい芝居がうまい。

あと、相手のいいパンチを絶対に出させないテクニックがあるから、希林さんとやると嫌がる人が多いよね。いいとこ出せないから、ガッと押さえつけるから。

役者としては、自分が出たら自分の世界に入り込ませないぐらいの世界チャンピオンクラスの芝居をやるから、若手はみんな参っただろうね。うまいもんですよ。

『あれ? こんなはずじゃ…』って思ってるうちにカットになって、自分のシーンがなくなっちゃうっていう。それくらいうまい」

と語っていましたが、本当に驚愕。
こんなスゴい人だとは全く気付いていませんでした!!

そしてストーリーですが、ただ戸惑っていた女の子の感性に、かすかなひびが入ってそこから光が差し込むように、ゆっくり、ゆっくりと開かれていくのが本当によかった!

何故こうするの?と問うても意味などない。
けれど、袱紗(ふくさ)のたたみ方、水の汲み方、足の運び方、教わった通りに何度も何度も繰り返していくうちに、ふと茶釜でお湯の沸く音や、外の雨の音を、これまでとちがったように感じる日が来る。
何なんだよと思っていた掛け軸から、突然本物の滝を感じる。
季節は巡り、様々な顔を見せ、そしてまた最初から繰り返す。
同じことの繰り返しが、時間をかけて豊かなものへと変容し、「繰り返しの有難み」のようなものも分かってくる。
そうして年月を重ねていくうちに、出会う人、居なくなる人、様々な人々の出入りが、人生に起こる。
何をする? どうやって生きたらいい? それらの問いはそのままに、答えなんて見つかりもしないけど、それでも人生は進んでいく。

『日々是好日』2018年

クライマックスの、激しい雨の日の茶室、紫陽花を模した美しい和菓子に向かっているうちに、典子のあたまの中で懐かしい人が微笑み、有難うございました!と、想像の世界で繰り返し典子が叫ぶシーンは、泣けて泣けて仕方がありませんでした。
ここの華ちゃん本当に見事だった。あたまの中では号泣と解放が起こっているけれど、茶室では穏やかに微笑んでいるだけなんです。
こんな豪奢な解放をくれる、侘び寂びの美意識。
わたしの方こそ日本に生まれて有難うございました!! ですよ!!

もう一度繰り返します。めっちゃくちゃ地味な映画です。
よくまぁこれを映画化しようとしたよなと驚くくらい。
どう考えても映画向きの題材やストーリーじゃない。正直誰にでも「観てみて!」と勧められる映画ではないかもしれません。

しかし、「いまここ」を存分に感じ、味わい尽くし、瞬間を切り取り、世界の美しさに震え、有難きに涙すること。同じ季節に、同じメンバーで集まっても、二度と同じ会合は持てないと知ること。
この感覚は、俳句にも似ていて、わたしには非常に響きました。

こういうことを改めて考えさせてくれた、本当に素敵な作品でした。

本当に観てよかった!!!!!!!(TдT)


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