『ザ・バニシング-消失-』1988年
『ザ・バニシング-消失-』1988年:あらすじ
オランダ人のレックスとサスキアは、自転車を積んだクルマでフランスへやってきました。
南仏に別荘を借りて、バカンスを過ごすつもりです。
ところが、旅の途中のドライブインで、サスキアが忽然と消えてしまいます。
レックスは取り憑かれたように、サスキアを探し続けますが――。
【レビュー※ネタバレあり】あなた誰推し? わいはレイモン!!
٩(๑´3`๑)۶ 誰推しかで分かれる天国と地獄【ザ・バニシング-消失-】
「素晴らしいイヤミス」「絶望しかない」「キューブリックが大絶賛」など、ワクワクする前評判を聞きまくったので、ウッハウハで鑑賞しました!
そして、これはスゴいですよ。大のお気に入りになりました。
最高。あけすけに申し上げてしまうと、大変興奮いたしました。
わたしの心の悪い部分が、めちゃくちゃに揺さぶられまくって、深い深い満足感を得ることが出来た次第です。
これは犯人探しの映画ではありません。犯人は、早い段階で明らかにされています。
というよりも、被害者であるレックス&サスキア視点と、犯人であるレイモン・ルモンの視点とが、交互に描かれる映画です。
レックス&サスキア視点の絶望感がスゴい。
二人は、どこにでも居るありふれたしあわせカップル。
旅のトラブルには苛立ってケンカもするし、でもすぐ仲直りして、バカンス楽しもうねーみたいな。
二人の何気ないやり取りを重ねながら、もう破滅への予感が濃厚すぎて怖すぎる。
道中、サスキアが「また金の卵の夢を見たのよ……」と語り、その後ガス欠でクルマが立ち往生、二人がケンカしちゃってサスキアがトンネルの中に置き去りにされちゃう辺りから、もうやめてーーーと恐怖全開!
トンネルを抜けたところに、サスキアがしょんぼり立ってるのを見つけるシーンは、ほっとするより恐ろしかった。何かもう、その存在の寄る辺なさ、頼りなさが恐ろしい。
サスキアが儚くて心細いタイプの女性って意味ではありません。彼女はどちらかといえば、気が強くて田舎臭い、野太いねーちゃんです。
しかし、トンネルの前に立っている彼女ときたらどうだろう。
大袈裟みたいですが、人間て誰もがこんな風に、真暗なトンネルの出口もしくは入口で、ぽつんと立ってるだけの存在だとでも言われたみたい。ラブラブカップルでさえそうなんだぜ、と、冷酷な事実を耳打ちされた気分になります。
海外旅行中に、大切な人でもある同行者が忽然と消える、というシチュエーションももちろん怖い。どんな人にも、決して起こってはならない恐ろしすぎる事件です。残された者は、その後新しい人生を始めようにも、いつでも、どんなときも、消えた者の存在が焼き付いています。
レックスがあの日サスキアと行くはずだった別荘に、新カノのリネケと出かけるシーンの喪失感は圧倒的。
レックスにとっては二度と取り戻せないかもしれないもの、そしてリネケにとっては、決して自分が参加することが出来ない恋人の苦しみ。
どっちが悪い訳でもないのに、この喪失感には胸が潰れそうになります。
ところが。
サスキアを誘拐した犯人、レイモン・ルモンを描き出すと、俄然風向きが変わってきます。
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以下ネタバレ全開、閲覧注意!!↓
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レイモンは大学教授で、体が大きく優しげで、ユーモア溢れる夫であり父親です。
ここまでは、驚きは特にありません。
レイモンについて語り始める前に、わたくしはトレーラーにひとことだけ文句を申し上げたい。
「男は知りたかった。悪の限りを。」
何これちがうじゃん。こんなん聞いたら、「女性をレイプしたあと切り刻んで捨てる」みたいな、ありふれたサイコパスと思っちゃうやんか。
ちがうね。
レイモンの怖いところは、性欲みたいな紋切り型の欲望で動いているのではないところ。
彼をひたすら突き動かしているのは、「これやったらどうなるかなー」「これ、出来るかなー」「あ、これ、出来るわ!」「出来るのに、ばれないのに、やらない意味はないよねー」「オレはやっちゃうよねーふつーはやらないかもだけど」程度の気持ちでしかないんです。
だから、溺れてる少女を助けるために橋の上から河に飛び込むときも、赤の他人の人生を台無しにすることにも、同じように躊躇がない。
このことの何が怖いって、たぶんこういう人って、そこいら中にたーくさん居るんだろうな、ってことなんです。
例えば、レイモンみたいに他人の人生を蹂躙する程のことはしなくても、「これやったらどうなるかなー」「出来るなら、そしてばれないなら、やらない意味はないよねー」というだけの気持ちで、お金が欲しい訳でもないのに売春する、程度の人ならば、それこそ無数に存在することでしょう。
河に飛び込む直前、河面に自分のシルエットが映っているのが見えて、レイモンがうふっと笑うシーン、そして山荘で、レイモンがなんかスゴいいたずらっこのような、しらばっくれてるようでもあり、笑いをこらえているようでもある表情で頬杖をついているシーンが、ものすごくぐっときました。ナイショで持っている悪い心を、そうだよねーそういうのあるよねーと分かってくれる相手に会えたような、何とも言えない充足感を覚えてしまいました。
たぶんこの映画がヤバいヤバいって言われるのは、「普通じゃない犯人」の方に、そーだよねーそーだよねー、うふっ☆って共感してしまうところなんじゃないか。
そんなふうに思いました。
是非、本作大好きという皆さんと、語ってみたいと思います!!(^皿^)