【あらすじ】映画かよ。Like in Movies 第42話「グリーンカード」
映画何でも調達屋、スズカからの呼び出しに、緊張しながら赴くミノル。
スズカはおもむろにスマホを取り出し、魅力的な女性の写真をミノルに見せます。
驚いたことに、スズカの依頼とは、彼女、華琳(ファリン)との、偽装結婚でした。
何でも彼女の書いた脚本が、日本で映画化されることが決まり、監督もすることになっていたのですが、就労ビザを出してくれていた会社が潰れてしまったとのことでした。
そして、入国管理局にビザ延長の手続きに行かなくてはならないのですが、事を有利に運ぶには、日本人の婚約者が居た方がいいので、是非ミノルに婚約者のふりをしてほしい、と言うのです。
固辞するつもりのミノルでしたが、ここでいつもの悪い癖が出てしまいました……。
映画の脚本、と聞いて、気になってたまらず、思わず華琳の脚本を読んでしまったのです。
そして、それはとても面白いものでした。
そしていつものように、ヲタ友・亜美に止められるミノル。
ミノルは、ひとまず華琳に会ってみることにするのですが……
【レビュー※ネタバレあり】映画かよ。Like in Movies 第42話「グリーンカード」
相手を「知らない」ということ
「え、レビューは?」って感じですけど、いきなりここで、わたくしトリッチの個人的な思い出を語ります。
おととしさぁ、クソ情けないけど、4ヶ月ほど失業してたんだよねー!
長年勤めた会社が潰れてさ。奮闘するも、前職と同じ職種に就くのは、こりゃ絶望的かなってなり。
そんなことより何より、とにかく何でもいいからお金稼がないと、露頭に迷うよ!ってなったので、コツコツと履歴書をばらまき、面談のアポを入れつつも、短期派遣や単発バイトなんかをしてしのいでたのね。
で、ほんの数日間なんだけど、某巨大運送会社の、物流センターにバイトに行ったのね。
どうせなら稼ぎたいやん、だから、夜勤にチャレンジしてみた訳よ。チンピラWeb屋だったこのトリッチさまがね。
そこでわたくしは、たくさんの、外国人の労働者と出会いました。
わたくしは、大学は外国語学部だったから、外国人たちと机を並べて勉強したことあるし、社会に出てからも、ちょっと一緒に働いたこともあるけど、それはみんな「大学出て~」みたいな人たちだった。つまり、実家が比較的裕福で、高度な教育を受けたことがあるような人たちばっかだった、ってことね。
おととしバイトで出会った人たちは、そんなんじゃなかった。
大学なんて行くはずもなくてさ。家族を支えるために、日本まで働きにきてるような人たちだよ。
黒人のサムは、わたくしが手首をさすっていたら、「痛いのー? 荷物重いから気を付けてー。こうするといいよ」と、重い荷物を確実に引っ張り込む力の入れ方を教えてくれた。
もう1人、名前は忘れたけど、スラッとした黒人の男の子は、いつも腰パンで、見事なタトゥーを入れている美しいTバックの尻を見せ付けるようにしていたっけなぁ。
そして、アジア各国から来ていた女の子たち。
彼女たちは、英語なんて話せないから、ちがう国から来た同士だと、片言の日本語しか共通言語がないのね。それでも、片言の日本語でそれはよくしゃべり、毎日楽しそうに笑い転げ、厳しい工場長の真似をしておどけたりしていた。
彼女たちは、日本人の女で、こんなキツい仕事を夜中にしているわたしが珍しかったらしく、何かと世話を焼いてくれた。
しかも、その世話の焼き方というのが、本当に思いやりにあふれていた。
自分で仕事を覚えられるように、と言い、助けが必要なときはすぐに助けてくれたが、先回りしてやってしまうようなおせっかいは決してせず、おお、なんと仕事を教えるのが上手なことか、と、感心しきりだった。
彼女たちと、ほんの短い間、一緒に働けたことは、わたしにとって、一生ものの思い出となった。
「働き者で、明るく、優しい」これ以上の人間の美徳って、実はないのではないか、と思ったよ。
彼女たちは、それまでわたしの人生に、登場しない人たちだった。
アジアの、裕福でない女の子たち。
わたしは一緒に働くまで、彼女たちに、悪感情を持ったことは一度もなかったけれど、同時に、関心を寄せたこともなかった。
それは、わたしが彼女たちを、まったく知らなかったからだ。
まったく知らなかったから、どういう感情を持てばいいのかも分からなかったからだ。
だがいまはちがう。
わたしは、巨大なベルトコンベアが縦横無尽に張り巡らされた集荷センターの、真夜中の「朝礼」で、ラジオ体操をしながら笑っていた彼女たちを思い出すと、胸が締め付けられるような気持ちになる。
仕事を失って、とてもつらかった時期に、明るく、ふつーの人間として接してくれて、気遣っていることを気付かせないくらいに、そっと気遣ってくれた彼女たちを思い出すと、心の底から感謝しつつ、彼女たちが、死ぬまで幸福でありますようにと願ってしまう。
そして、知らないということは、本当に恐ろしいことだな、と思う。
知らない、ということは、無罪ではない気がする。
知らないから、どういう感情を持ったらいいか分からない。
どういう感情を持ったらいいか分からない、ということは、相手に対して、限りなく冷たくなれる可能性もある、ということだ。
決してフラットではない。
「自分はフラットだ」と言い訳できる安全地帯に身を置きながら、ぞっとするほど残酷な所業を、無意識にやらかす立ち位置であるかもしれない、ということだ。
才能があり、魅力的でもある女性に、残酷になれるということ
さて、やっと映画かよ。の話が始まります。
映画かよ。Like in Movies 第42話「グリーンカード」のヒロイン、華琳(ファリン)は、脚本が日本で評価され、彼女自身に監督してもらって映画化しよう、という話が出るような、才能あふれる女性です。
しかも、美しく勝ち気で、何とかビザを更新したいから、偽装結婚というか婚約のような真似までしようとしている訳だけど、紹介されたミノルが「好みの男性でないからイヤ!」とはっきりと言い切り、当のミノルに「イケメンを紹介せよ」とまで言い放ちます。
好きと言ったわけでもないのに、一方的に振られたかたちになってしまった我らがミノル。実に理不尽です。
これぞ「解せぬ。」ってやつですね、と、おかしくてたまりません。
そしてミノルは「失礼な奴だなー!」と言いつつも、彼女に協力し、友人を紹介します。
で、紹介した友人、三倉くんと華琳は、まんまと恋仲のようになってしまい。
苦笑しつつも、楽しそうにしている華琳を、よかったなぁと思いつつ、ミノルは見守るのでした。
最初に「好みでない」と、バッサリ断じられてしまったミノルですが、やがて華琳と「恋人同士の往復書簡」をしたためることになります。
何故かというと、華琳が「日本人の婚約者持ち」であることを演じる中で、「手紙があると有利だから」と、三倉くんとの往復書簡を作ろうとするのだけど、そんなの面倒くさいと断られてしまったため、ミノルに代筆を頼んだからです。
ここのシーンが、本作でいちばん好き。
最初はブツブツ言いながら、ぎごちなくウソのラブレターを書いていたミノルだけど、何度もやり取りをしているうちに、文面に華琳の人となりが透けて見えるようになってきて、彼女とのやり取りに、静かなよろこびを感じるようになっていくのです。
わたしはこれまでも、ミノルの「人との距離感が好き」って何度も言ってきたけど、今回のミノルも、とてもいい。
ミノルはいつも見守っている。お調子者で、勘違いも多く、ドタバタ翻弄され、そうしながらも、いつでも相手を傷付けないくらいの距離をとって、そっと見守っている。
しかし、相手をかばったり、勇気づけたりする必要があるときは、声を震わせながらでも、踏み込む。
ほんといいやつだな。ミノルくんがいいやつだから、わたくしは、ずーっと映画かよ。を観続けているのかもしれません。
今回は、華琳を侮辱した三倉に対して、ミノルは怒りをあらわにします。
信じられないような侮辱の言葉を吐く三倉に、ミノルが言い放つ
「お前に華琳はもったいなさすぎるわ」
そしてやるせないラストで、ミノルが泣くシーンは、本当にグッサリ刺さりました……。
踏みにじられるのは、かなりキツい体験だけど、自分がされるのはまだましだよね。
どのくらい痛いか、はっきり分かる分、恐怖が少ない。
好きな誰かが踏みにじられる方が、はるかにキツい。
そこには巨大な恐怖があるから。
好きな誰かが、痛い思いをしているなんて、耐えられない。
しかもどのくらい痛いかは、想像するほかない。これが本当にこわい。
ミノルは、華琳に、はっきりと恋してる訳ではないんだろうなー。
でも、美しくて、才能があって、素晴らしい脚本を書き、気が強くて、のびのびと自由な彼女に惹かれていたし、自分のことは好みじゃないってはっきり言ってるし、自分の友だちといい仲になってノロけたりしてるけど、楽しそうだからまぁいいか、と思ってたんだろうなー。
で、偽の往復書簡のおかげで、もう少し深い部分の彼女が、ちょっと見える気がしたりして、不思議なやり取りをすることになったご縁を、静かにうれしく思っていたんだろう。
なのに、傷付いた彼女を見てしまった。
いつも強気な彼女が、声を震わせながら「昨日脚本読み直したの。なんかちょっとちがう。もう書いたときのわたしじゃなくて……分かる? もうあのときのわたし、どっか行っちゃった」って言うのを、聞いてしまった。
ここ、華琳の声が震えてるとこ、わたしも泣いてしまう。
でも、もらい泣きするほどかなしくなりつつも、うらやましいじゃねぇかとも思う。
自分を傷付けた男に「お前にあいつはもったいなさすぎる」と言ってくれる男ともだち。
わたしの痛みを思って、泣いてくれる男ともだち。
こういうともだちを持つことは、人生の暁光であります。
そんな男ともだちが、わたくしトリッチも欲しい。まじで欲しいです。
華琳の未来に、幸多きことを願ってやみません。
今回は出会えなかったけれど、次に日本に来たときは、若い知里佳ちゃんと火花と散らしながら、お互いの才能を高め合うようなことができるかもしれないし、杜さんに出会えば、杜さんは死物狂いで映画化のために奔走してくれそうだし、
いっそ日本なんて小国はやめて、今やエンタメ王国となった、韓国でのブレイクがあるかもしれないし、もしかしたらハリウッドまで行けるかもしれない!
華琳は、どんな屈辱もかなしみも、創作のための養分に変えることのできる強い女性にちがいありません。
けれど、強いからといって、傷付けていいはずはないのだ!
このことを、最後に強く、申し上げたかった。