Canary Chronicle~カナリアクロニクル~

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映画や本のレビューや雑感、創作活動や好きなもののことなど。トリッチのあたまの中のよしなしごとを綴ります。

【映画レビュー】『冬の旅』1985年

『冬の旅』1985年

18歳のモナが、力尽きるまで

『冬の旅』1985年 あらすじ

『冬の旅』1985年

感傷無用な雰囲気に魅せられる、大好き映画となりました。

南仏の、冬枯れの畑。農夫が少女の遺体を発見しました。
彼女の名はモナ、寝袋とテントを抱えて、ヒッチハイクであてどない旅を続ける18歳の少女でした。
出会った人々の証言から、モナが亡くなるまでの数週間の様子が語られてゆきます――。

『冬の旅』1985年

凍えながらヒッチハイクをするモナ

【映画レビュー】『冬の旅』1985年

【ネタバレなし】アニエス・ヴァルダ監督が、モナを通して描きたかったものを、つらつらと考える

DVDとかなくて鑑賞困難だった本作が、イメージフォーラムで上映されると知ったので、すわとばかりに駆け付けて観てきましたーーー

めっちゃいい映画だわ、ヤッバ! わたくしはめちゃくちゃ気に入りました!

それと同時に、これまで本作について書かれたことのすべて、イメージフォーラムのビラも合わせて、すべてまちがっている、というか、違和感を覚えたというか、「そーじゃねんだよな」とわたくしが思ったことを、書いてみたいと思います。

『冬の旅』1985年

出会った男とその場の流れで、一緒に居たり離れたり

まず主人公のモナだけど。彼女は苦境に負けない系の「不屈の人」ではぜんぜんない。そして、ちょっと酔ったようなあおり文句にあるような、「自由を選んだ人」でもぜんぜんない。イメージフォーラムのビラはまさにこれっぽい感じでしたね。自由を選ぶって、確固とした意志でそうしてるようなニュアンスがあるけども、モナはぜんぜんそんなじゃありません。寧ろそれは、モナが途中で合う「放牧してる思想家」の方でしょう。イヤなおっさんだったなあいつ!

モナをうらやましく思う、みたいな話も、ちょっとちがうと思う。

映画の中にも、そんなおばさんが一人出てきましたが、本気かよ、と思います。めちゃくちゃ寒い冬に、野外で寝るしかない生活、そんなだから身を守る術もなくて、森でクソみたいな浮浪者爺さんにレイ○されるような生活が、うらやましいですか? まじで言ってんの?? 「自由の代償として……」とか、酔っ払ったようなことを言ってる場合じゃないでしょう。

かと言って、「これが貧困のリアル……」とか言い出すのも、ちがうような気がする。 貧困のリアル、とか言い出すときって、若干粉砂糖がふりかかるのを避けられないように思います。わたくしもエモい貧困ものはめちゃくちゃ大好物ですが、『冬の旅』はそれが言いたくて撮った映画では絶対ないと確信しています。

モナの生きづらさ? ふつーの生活への馴染めなさ? 孤立感? それも主題じゃないように感じる。ついでに言ってしまうと、モナが死ぬ前の数週間で出会う人々のこととか、彼らとの触れ合いもそう。いい人も悪い人も、両方描かれているけれども、それもこの映画が言いたいことや伝えたいことではない、と感じました。

ほんっとーーーーに淡々と、ふてくされて、怠け者で、調子に乗るときは乗って、他人の親切は礼も言わずに受け取り、テキトーにセックスし、レイ○され、おなかを空かせて寒さに震える少女の毎日を描いている映画で、冒頭で、主人公は、言葉が悪いですが野垂れ死ぬことが明かされているので、救いなんてあったもんじゃない。

『冬の旅』1985年

危険な男とつるんでしまうと……。

でもなんだろう。わたくし、背中をバシッと叩かれたような気がして、はっとしました。

励まされた、は言いすぎで、励まされてなんかいない。こんなつらそうな生き方、そして一生に、励まされる訳がない。

でもなんか、オッシャー!てなりました。
あ、なんかもう大丈夫だ、って感じました。

何が大丈夫なんだか、自分でも分かりませんが、例えて言うなら、夜道にぼうっと浮かび上がる白いモヤに、やみくもに怯えてたんだけど、なんだアレただ背の高い雑草にコンビニの袋が引っ掛かってるだけジャンて気付いたような感じです。

【以下ネタバレあり!】「いつもの日常」の延長にあるならば

ずーっとふてくされていたモナ、何が起こってもただただぶんむくれていただけのモナですが、死の直前だけ、わーっと泣くんですね。

あの涙にエモいものを受け取っちゃうと、感想がちがくなるでしょうけれど。

わたしには、モナが死んだあの日は、彼女にとっては「ちょっとだけいつもよりついてない日」でしかなく、あくまで日常の延長上だったのが、めっちゃいいなと思いました。

前夜、寒くて眠れず、疲れるしおなか空いたしで、何かもらえないかなと村に立ち寄ったモナは、たまたまやってたワインの収穫祭で、ワインをぶっかけられてしまうんですね。

 

浮かれ騒いでいただけの村人は、もちろん悪気なんてなかった。
でもただでさえ凍えているのに、ワインかけられてビショビショになってしまい。這々の体で畑まで逃げ帰ったモナは、つまづいて転んでしまう。
で、もうイヤーーーーッ!って感じで、遂にわーんと泣いてしまう。

あれ、ただうんざりして泣いただけで、まさかあそこで死ぬとはモナ自身も思ってなかったんじゃないかなぁ。
そして、うん、その死は、そんなに悪い死に方には思えませんでした。
たとえば癌で余命宣告されて、一刻一刻とからだが蝕まれていくのをまざまざと感じながら、恐怖に震えて死ぬよりも、自然でいい死に方だな、と思ってしまいました。

『冬の旅』1985年

動物のような自然死にはっとする

もっと楽に生きられなかったのか、とか、18歳で死んでしまうなんて可哀想とか、家族も友達も恋人もおらず、なんか路上で出会ったへんな男とたまに一緒にいるだけだし、あとかりそめの親切を他人から受け取るだけで、孤独だねっていうのももちろんそうなんだけど、そしてうらやましいとか微塵も思えないし、モナはいいやつでも何でもないので、モナ好き!とは思わないけれど、

モナみたいに口をとがらせて逃げたいことって、毎日々々、何度だってあるし、うるさい、かまわないで、と言いつつ、テキトーにセックスして誤魔化したいときだってあるし、はらが減ってくだらないもの食べることもあるし、

やっぱりこの映画から、背中をバシッと叩かれた、としか言いようがないものを、しっかりと受け取ることが出来たと思うのです( ^ω^ )

言語化出来ないものを、渡したり、受け取ったり。映画を作ったり、観たりするってめっちゃおもろいな! と、あらためて思った次第です。

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