Canary Chronicle~カナリアクロニクル~

カナリアクロニクル

映画や本のレビューや雑感、創作活動や好きなもののことなど。トリッチのあたまの中のよしなしごとを綴ります。

【映画レビュー】『地下鉄のザジ』1960年

地下鉄のザジ

地下鉄のザジ』1960年 あらすじ

ザジは、恋多き女である母に連れられ、パリへやって来ました。
母は彼女を弟ガブリエルに預け、恋人の下へ急ぎます。

地下鉄のザジ

 

ザジのいちばんの目的は、パリの地下鉄。しかし残念ながら、ストで閉鎖されていました。

地団駄を踏んで悔しがったザジは、大人たちが制止する声、引き戻そうとする手を振り払い、自由に花の都パリを駆け回ります。そんな彼女に大人たちは翻弄されて???

【レビュー※ネタバレなし】『地下鉄のザジ』1960年

毎日がお祭りみたいな当時のパリの素晴らしさ!

めちゃくちゃ楽しい映画を観てしまいました!
ずっと観たかった『地下鉄のザジ』です。

一応あらすじは書いたけれど、ストーリーとかはもうどうでもいいです。
ネガティブな意味でそう言うのではなく、お話の筋が大事な映画ではない、ということを先に申し上げたかった。

レーモン・クノーによって原作のザジが書かれた経緯や時代背景、そして一見「奇妙な登場人物によるドタバタ劇」に見えるものが、何を暗示してるかとか、そういうのも、知識として知っています。わたくしはクソがつく真面目人間なので、観てから「おや?」と思ったら調べる質ですのでね。

でも、敢えてそーゆーのには言及しません。
んなこたあどーでもいーんだYO!

ずーっと観たかった作品なので、敢えて予備知識ゼロのまっさらな状態で観てみて、わたくし個人が受けた印象や、感動について語らせてください( ^ω^ )

これを撮ったかたは、ほんっとーーーーーに1960年代のパリという街が好きで好きで、この空気を閉じ込めておきたかったんじゃないかなーーーーー。

敏捷でこまっしゃくれた、とっても可愛い女の子。生意気な悪態をつきながら、先を走ってゆく。
もう少しで届きそう、と思ったら、するりと逃れてしまう。

地下鉄のザジ

 

しかし彼女は、こちらを気にしている。
いたずらな笑みを浮かべて、繰り返し繰り返しこちらを振り向き、ちょっかいを出し、或いはしつこく質問を浴びせて、こちらがつい「うるさい!」と声を荒らげたら、また笑いながら駆け出してしまう。

地下鉄のザジ

 

ザジを追い、ザジにからかわれ、ザジに導かれながら、わたしもあなたも、’60年代のパリの街を駆け抜けてゆく。

道路工事の匂いや、カフェの匂い。外国人旅行客でギュウギュウの、バスの車内の匂い。エッフェル塔の、埃っぽいような金属の匂い。
やわらかな朝日が、やがて南中し、穏やかに暮れて楽しみでいっぱいの夜の空気で辺りが満たされるという、一日の光の変化。

生意気な子どもや、彼女を「とんでもない!」と言う大人。しかし怒っているようでいて、そんな子どもを丸ごと受け入れているように見える。

そして大人は、あそこでもここでも、恋にうつつを抜かしている。
田舎から子ども連れで出てきて、恋人と過ごすために弟に子どもを押し付けるザジの母親、タクシー運転手はバーのおばさんを口説き、二人は一夜で婚約を交わす。
愛らしいパステルパープルで全身をコーディネイトした、上流階級の老婦人は、誰彼構わず欲情し、小さなザジに「いいかげんにして! おじさんは既婚者よ」と言われてしまう。

地下鉄のザジ

 

さぁ楽しみましょう。飲んで踊って、飲んで飲んで飲んで、倒れて訳が分からなくなるまで踊って。
叩くみたいにピアノを奏で、警官が踏み込んできたら、みんなで殴ってやりましょう、フライパンとかで。

とてつもない美人の妻がいるガブリエルおじさんは、女装して踊り、とてつもない美人の妻は、誰に言い寄られても表情ひとつ変えず、淡々とおじさんのサポートをしている。

あっほんとにスゴいな。
これ撮った人は、ほんとにラ・ヴィ・アン・ローズを生きたんだな。
街ごと、人生を愛してたんだな。

そして当時のパリは、何だかんだ言いつつ、同じような人であふれていたんだな。

待てーーーーこのーーーーッ!と、ショートヘアの女の子の、オレンジのセーターの背中を追いながら、わたくしも、埃っぽい匂いで、やわらかな光のパリに迷い込み、幾百ものラ・ヴィ・アン・ローズの横を駆け抜けていくのだ。

そしてガブリエルおじさんの家に戻り、淡々とおじさんの衣装を準備している、おじさんの美しき妻の横顔を見つめ、アルベルティーヌ、わたし何だか疲れたよ、と言う。アルベルティーヌはたぶん、そうね、としか答えないだろう。で、薄く微笑みを浮かべて、ゆっくりと自転車を漕ぎながら、おじさんに衣装を届けに行くので、今度はわたしも、彼女のあとを追って夜のパリを巡るのだ。

地下鉄のザジ

 

【以下ネタバレあり】おとぎ話の終わり。賑やかに現実に帰ってゆく朝

そして、ラストもめっちゃくちゃお見事!!

アルベルティーヌが駅までザジを送って、間一髪で列車に乗り、またねー!とザジが帰って行く。

ザジとさまよい、アルベルティーヌと一緒に夜の狂乱現場に向かったわたしたちは、あそこで統合されて、また現実の世界へと帰されるんだなーと思ったよー!!( ^ω^ )

で、わたくしはこんにち、現実の世界でこれを書いてる訳ですが、『地下鉄のザジ』から受け取った豊穣なもののおかげで、とってもふわふわいい気持ちであります。

もしかしたら、創作って、何も難しいことはなくて、あーもー好きだな!って思ういまこの瞬間を、閉じ込めて、いつでも手にとって見られるものにすればいいだけなのかもしれない。

好きなひとたち、好きな街、好きな空気、好きな匂い、好きな光。これらが揃えば、そこはわたしの王国だ。

そしてあなたの王国にも、わたしは迷い込みたい。手を取り合って、駆け回って、あなたの王国を感じたい。

たぶんわたしは、'60年代パリを生きたひとたちの王国を、駆け回ってきました。
めちゃくちゃしあわせな体験でした。
わたしは映画というものに、こういうものを感じて生きていきたいです!!( ^ω^ )

  にほんブログ村 映画ブログへ にほんブログ村 映画ブログ 映画評論・レビューへ