『シシリアン・ゴースト・ストーリー』2018年
『シシリアン・ゴースト・ストーリー』2018年:あらすじ
ルナは13歳、同級生のジュゼッペに憧れてた彼女は、ある日手紙を渡したくて追いかけているのを彼に気付かれます
誘われて乗馬を見に行き、ジュゼッペの美しい乗馬姿と初キスにときめくルナ。
しかし馬を厩舎に戻しに行ったジュゼッペは、そのまま忽然と消えてしまいます。
翌日も、その次の日も学校に来ないジュゼッペ。学校の教師もジュゼッペの母と祖父も、もう関わるなとだけ告げて「ジュゼッペの失踪」からルナを遠ざけようとします。何かがおかしい。ルナは狂おしく、恋するジュゼッペを取り戻そうと苦闘します――。
【レビュー】残酷な現実と悲しく優しい夢幻世界
公式サイトの「いつも、そばにいるよ。」的な映像を見て、少年少女の澄んだラブストーリーかなーなんて油断してるとガツンとヤラれるので注意が必要です。
ひとことで言うなら「素晴らしい鬱映画」。全編を覆う不穏な緊迫感と、悲しみに胸が腐り落ちてしまいそうな喪失感がすさまじい。
はっきり言って怖いです。迫り来る巨大な黒い野犬。荒れ野を吹き狂う風の音。洞窟の中の水滴音とフクロウの声。
美しいシチリアの風景と、少女の悪夢世界の対比。悪夢は薄闇と水に閉ざされていて、効果音や音楽も不穏そのもの。
でも奇妙に、胸がぎゅっと詰まるような悲しさと美しさに満ち満ちていて、非常にわたくし好みでした。
主人公のルナは反抗期真っ只中で、優しいパパは理解者であるけれど、美しく厳格な母親との折り合いはよろしくありません。
窮屈な毎日を、四六時中空想して絵を描いたり文章を書いたりして、現実を遮断することで乗り切ろうとしています。
同級生の美少年ジュゼッペは、彼女にとってはおとぎの国の王子さまのような存在で、彼女の空想の中心にいつも存在しています。
それなのに、思いが通じかけた直後に彼は消えてしまう。どす黒い大人の事情に巻き込まれて。
シチリアという土地柄と、大人たちが決して関わりたくないと考える事情。
少女が抗うにはあまりにも大きな悪しき存在。
少年の現実と、少女の現実と幻想が混じり合う混沌世界
ジュゼッペを探し求めるルナの現実と、ルナの悪夢、そしてジュゼッペの悲惨な状況とが混じり合います。
この現実と幻覚とがごっちゃになる表現が、ダメな人はダメと感じるでしょう。
わたしはめちゃくちゃ好きと思いました。
それはきっと、お互いを求める気持ちが響き合って、夢でもいいから会いたいと思う気持ちが、叶ってほしい、叶うと信じたいから。
少年と少女の思いには温度差があって、狂おしいような片思いをしていたのは少女の方。
で、少年はそれに気付いてうれしく思い、応える方向に気持ちが動きかけた瞬間に、二人は引き離されてしまう。
少年は、受け取った直後に微笑みながら手紙に目を通すシーンがあるけれど、たぶんあのときは斜め読みだったんだろうなーと思います。
彼が熟読したのは、監禁が長引いてだんだん悲惨になってきてからです。
この手紙がたまらない。
「いつもわたしは夢見ている。空想の中心に貴方がいる。もしも貴方が応えてくれないのなら、もう夢を見るのはやめる。ちょっとは泣くかもしれないけれど、大丈夫。けれどももし貴方が応えてくれるなら、それは素晴らしいこと。わたしは夢を見続けることで、何もかも締め出せる、うるさい母の呼ぶ声さえも。」
1回劇場で鑑賞しただけなので、細部ちがってるかもしれないけど、大体こんなようなことを書いてあって。
諦観に支配されつつあったジョゼッペが、読んだ直後に歯を食いしばって泣き始め、手紙を奪われまいとでもするかのように、地面を掘って埋めて、思い返して掘り出して、握りしめ、ここから出してくれーーーーーと叫び始める。
この瞬間に、たぶんルナの気持ちはジョゼッペに本当の意味で届いたのかなと思って、わたくし号泣してしまいました。
映画終わって出てきても、しばらく呆然としてしまい、メニューとか見てもまったくあたまに入って来ないし、もうやめて、しなせて!ってなりました。
つまり、トリッチ的にはドストライクです。ちょうオススメ。
幻想的な映画が苦手な人、シーン毎に細かい説明を求める人にはちょっとキツいかもだけど、静かでありながら致死量の喪失感に酔いたい貴方には、自信を持ってオススメしちゃいます。
これDVDほしいなー。いや、映画館という特別な暗がりで、全身で酔った体験を思い出とした方がいいかな。迷う!
映画館で観るのって、ド迫力アクションとかが楽しいと思われがちですが、薄暗い幻想に閉じ込められるようなタイプの映画も、まったくもって映画館向きと改めて思いました。
実に素晴らしい映画体験でした。ちょう大好き!!