Canary Chronicle~カナリアクロニクル~

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映画や本のレビューや雑感、創作活動や好きなもののことなど。トリッチのあたまの中のよしなしごとを綴ります。

【映画レビュー】『マタンゴ』1963年

マタンゴ』1963年

『マタンゴ』1963年

マタンゴ』1963年:あらすじ

大学教授の村井、彼の教え子で婚約者の明子は、青年実業家笠井に誘われて、彼の遊び仲間とヨットに乗り込みました。他のメンバーは、笠井の愛人でクラブ歌手の麻美、小説家の吉田、笠井の会社の社員でヨットのベテランの作田が船長で、彼を手伝うために漁師の小山も臨時に雇い入れて同行させています。

洋上ではしゃぎ回る一行でしたが、天候が悪化、マストが折れて漂流することになってしまいました。

ようやく孤島に流れ着いてほっとする一行でしたが、そこには先に漂着した船がありました。が、様子がおかしい。食料が残され、乗組員は一人も、遺体すら見当たりません。カビに覆われた難破船を改造して、仮の宿とする一行。

『マタンゴ』1963年

船内で発見された航海日誌には、「島のキノコには幻覚作用があるから絶対に食べてはならない」とありました。

或夜、一行は謎の怪人の襲撃を受けて震え上がりました。

『マタンゴ』1963年

追い詰められて幻覚を見たのか? それともこの島には、何か得体の知れない者が住んでいるのか……? 極限状態で追い詰められていく中で、食料や女性を巡って争いが起こります。そして飢えに耐えきれず、問題のキノコを食べようとする者も現れて……。

『マタンゴ』1963年

【レビュー※ネタバレなし】極限状態で剥き出しになる人間性と、諦めへの甘い誘惑【マタンゴ

幻覚作用のあるキノコ、マタンゴが中心のお話なだけあって、圧倒的に印象的で、禍々しく美しいビジュアルに、先ずは言及したいと思います。

孤島に着く前からスゴい。夜の嵐で船が難破してしまい、早朝、ボッキリ折れたマストの横で、多分吉田?がうなだれるシーンがあるのですが、朝日の感じ、折れたマスト、そして乱れた吉田の服装とうなだれ具合が、まるで西洋絵画のような美しさで、度肝を抜かれました。

それから何日もヨットは漂流する訳ですが、終わりの見えない漂流に、心の弱い者がバランスを失いかけるのですね。これも吉田だったと思いますが、大きな船が向かってくる幻覚が見える。

「おーーーい、船だぁ、船だぞぉ!! 助けてくれぇ、おーいおーーーい!!」

そこに船なんていません。しかし、心底助かりたい吉田には、船の大きなシルエットが迫る。船は少しも速度を落とさずに真っ直ぐ向かってくる。おーーい、ぶつかるぞぉ!! 止まれえええええ!! すわ衝突!という瞬間で、やっと船の幻は消えます。呆然とする吉田。そんな彼を見てかぶりを振る仲間……。このシーン、なんかポーの恐怖小説みたいなクラシックな怖さがありました。

そして、クライマックス近く。問題のキノコ「マタンゴ」をかじってしまったある男(ネタバレになるので役名は伏せます)。

彼は東京では夜毎ふらつき歩いている遊び人です。そんな彼が見ているのは、東京ナイトライフの幻覚……バーの踊り子はセクシーな衣装で身を包んで、妖艶でアクロバティックなダンスを披露します。そんな女たちに重なる東京のネオン……麻美のけだるい歌声。この幻覚表現が、もう雰囲気満点。素晴らしかったですね。それと同時に、ああー調子に乗ってヨットなんかに乗らなければ、今もこうして夜遊びしていたかもしれないのに、と、何とも言えない憐れみ?のような気持ちも惹起されます。

そしてマタンゴ!! めっちゃ怖いです。

でも、何かこう、何もかも諦めて彼らに抱きとめられたくなるような、非常に不思議な魅力があります。ヴォッヴォッヴォッヴォッヴォ、ヴォーッヴォッヴォッヴォッヴォッヴォと楽しそうに笑い続けるマタンゴ!! めっちゃきもいのに、不思議な包容力を感じる。これはスゴいなぁ。よくもまぁこのような境地に達したものです。ちなみにマタンゴはエリンギタイプとしめじタイプがあるらしい。わたしはエリンギタイプが好きだなと思いました(笑)

必死で食べ物を探す遭難者たちですが、海藻くらいしか見つからない過酷な環境で、ウミガメの卵を見つけたものは富める者と裏取引をしたり。先の遭難者たちが残した缶詰を見つけた者は、皆に知らせる前に自分が腹いっぱい食べてしまったり。かわい子ちゃんと妖艶な女性がいるため、女性を巡っての争いも勃発。

何とか状況を好転させようと、一番のベテランが奮闘するも、ワガママな遊び人たちの足並みは揃わず、まさかの裏切りもある。堕ちてしまえる者とどうしても堕ちることの出来ぬ者。この群像劇はしんどい

しかし、どちらかというと、醜さを剥き出しに出来る者よりも、極限状態でも理性を放り捨てることの出来ない者の方が、悲惨なのかもしれない。そんなことも思いました。うーむ。人間の尊厳とは。誇りとは。でも死にかけてるときにそんなことを言っていられないだろうか。自分はどうなるだろうか。など、心は千々に乱れました。

とうとう堕ちなかった者、耐えて耐えて耐え抜いた挙げ句に負けて堕ちた者。彼らが非常に哀れでした。

それにしても、ラリっている麻美=水野久美の妖艶さたるや!! まさしくヴァンプでした。

『マタンゴ』1963年

『マタンゴ』1963年

いやーもう水野久美さんは世界に誇る美女ではありませんか。これはスゴい。水野久美が呼びに来たら、マタンゴを食べずにこらえるなんて、絶対無理ですよ。わたしなら食べますね。

そしてマタンゴ。襲ってくると思うと恐ろしいけど、あれはもしかして「いつまでも苦しんでいないでこっちへおいで」と誘いに来てるのではないか。

寧ろ、マタンゴはやさしい。もうどうしたって島を脱出出来ないのなら、飢えも苦しみもないマタンゴの仲間になってしまえばいいのではないか……。

ゾンビと一緒で、マタンゴも、なるまいとするから辛いのですね。
諦めて、なってしまえばしあわせになれるのかも(笑)

不気味で恐ろしいのに蠱惑的。非常に誘惑的な、ステキな映画でした。

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